リゾートバイト 5

どれくらい走ったのか分からない。
あんまり長くなかったんじゃないかな。
まあ正直、それどころじゃないほど尾てい骨が痛くて
覚えていないだけなんだが。
着いた場所は普通の一軒家だった。
横に小さな鳥居が立っていて、石段が奥の方に続いていた。
俺達の通されたのはその家の方で、
旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、
俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」と言った。
旦「おめぇら、口が悪いからな。変なこと言うんじゃねぇぞ」
俺は思った。この人にだけは言われる筋合いがないと。
少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。
年は20代くらいの普通の人なんだけど、
額の真ん中にでっかいホクロがあったのがすごく印象的だった。

その女の人に案内されて通されたのは、
家の一角にある座敷だった。
そこには一人の坊さん(僧って言うのか?)と、
一人のおっさん、一人のじいさんが座っていた。
俺達が部屋に入るなり、
おっさんが「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。
旦「座れ」
旦那さんの掛け声で俺達は、坊さんたちが並んで座っている
丁度向かい側に3人並んで座った。
そして旦那さんがその隣に座った。
するとじいさんは口を開いた。
「○○(旅館の名前)の旦那、この子ら全部で3人かね?」
旦「えぇ、そうなんですわ。このBって奴は、
もう見えてしまってるんですわ」
旦那さんがそう言った瞬間、
おっさんとじいさんは顔を見合わせた。
すると坊さんが口を開いた。
坊「旦那さん、堂に行ったというのは彼ですか?」
旦「いえ。実際行ったのはこの○○(俺の名前)って奴で」
坊「ふむ」
旦「Bは下から覗いていただけらしいんです」
坊「そうですか」
そして少し黙ったあと、坊さんはBに聞いたんだ。
坊「あなたは、この様な経験は初めてですか?」
Bが聞き返す。
B「この様な経験?」
坊「そうです。この様に、霊を見たりする体験です」
B「え・・ないです」
坊「そうですか。不思議なこともあるものです」
B「・・俺」
Bが何か喋ろうとしていた。
そこにいた全員がBを見た。
坊「はい」
B「俺・・・死ぬんでしょうか?」
そう言ったBの腕は、正座した膝の上で突っ張っているのに
ガクガクと震えていた。
すると坊さんは静かに答えた。
坊「そうですね。このままいけば、確実に」
Bは言葉を失った様子だった。震えが急に止まって、
畳を一点食い入るように見つめだした。
それを見たAが口を挟んだ。
A「死ぬって」
坊「持って行かれるという意味です」
意味を説明されたところで俺達はわからない。
何に何を持って行かれるのか。
更に坊さんは続けた。
坊「話がわからないのは当然です。○○くんは、
堂へ行った時に何か違和感を感じませんでしたか?」
坊さんが堂といっているのは、どうやらあの旅館の
2階の場所らしかった。
それで俺は答えた。
俺「音が聞こえました。あと、変な呼吸音が。
2階のドアには、お札の様なものが沢山貼ってありました」
坊「そうですか。気づいているかも知れませんが、
あそこには人ではないものがおります」
あまり驚かなかった。事実、俺もそう思っていたからだ。
坊「恐らくあなたは、その人ではないものの存在を耳で感じた。
本来ならば、人には感じられないものなのです。
誰にも気づかれず、ひっそりとそこにいるものなのです」
そう言うと、坊さんはゆっくりと立ち上がった。
坊「Bくん、今は見えていますか?」
B「いえ。ただ音が、さっきから壁を引っかく音がすごくて」
坊「ここには入れないということです。
幾重にも結界を張っておきました。
その結界を必死に破ろうとしているのですね」
しかし、皆がいつまでもここに留まることは出来ないのです。

今からここを出て、
おんどう(ごめん音でしかわからない)へ行きます。
Bくん、ここから出れば、またあのものたちが現れます」
また苦しい思いをすると思います。でも必ず助けますから、
気をしっかり持って付いて来てくださいね」
Bはカクカクと首を縦に振っていた。

そうして坊さんに連れられて俺達は、
その家を出てすぐ隣の鳥居をくぐり、石段を登った。
旦那さんは家を出るまで一緒だったが、
おっさんたちと何やら話をした後、
坊さんに頭を下げて行ってしまった。
知ってる人がいなくなって一気に心細くなった俺達は、
3人で寄り添うように歩いた。
特にBは目を左右に動かしながら
背中を丸めて歩いていて、明らかに憔悴しきっていた。
だから俺達は、できる限りBを真ん中にして
二人で守るように歩いた。

石段を上り終わる頃、大きな寺が見えてきた。
だが坊さんはそこには向かわず、
俺達を連れて寺を右に回り奥へと進んだ。
そこにはもう一つ鳥居があり、更に石段が続いていた。
鳥居をくぐる前に坊さんがBに聞いた。
坊「Bくん、今はどんな感じですか?」
B「二本足で立っています。
ずっとこっちを見ながら、付いてきてます」
坊「そうか、もう立ちましたか。
よっぽどBくんに見つけてもらえたのが嬉しかったんですね。
ではもう時間がない。急がなくてはなりませんね」

そして石段を上り終えると、
さっきの寺とは比べ物にならない位小さな小屋がそこにあり、
坊さんはその小屋の裏へ回ると、俺達を呼んだ。
俺達も裏へ回ると坊さんは、ここに一晩入り
憑きモノを祓うのだと言った。

そして、中には明りが一切ないこと、夜が明けるまでは
言葉を発っしてはならないことを伝えてきた。
坊「もちろん、携帯電話も駄目です。明りを発するものは全て。
食ったり寝たりすることもなりません」
どうしても用を足したくなった場合は
この袋を使用するようにと、変な布の袋を渡された。
俺は目を疑った。布って・・・
だが坊さん曰く、中から液体が漏れないようになっているらしい。
信じ難かったが、そこに食いついてもしょうがないので
大人しくしといた。

その後、俺達に竹の筒みたいなものに入った水を
一口ずつ飲ませ、自分も口に含むと俺達に吹きかけてきた。
そして、小さな小屋の中に入るように言った。
俺達は順番に入ろうとしたんだが、Bが入る瞬間、
口元を押さえて外に飛び出して吐いたんだ。
突然のことで驚いた俺達だったが、
坊さんが慌てた様子で聞いてきた。
坊「あなたたち、堂に行ったのは今日ではないですよね?」
俺「え?昨日ですけど」
坊「おかしい、一時的ではあるが身を清めたはずなのに、
おんどうに入れないとは」言ってる意味がよく分からなかった。
すると坊さんはBのヒップバッグに目をつけ、
坊「こちらに滞在する間、誰かから何かを受け取りましたか?」
と聞いてきた。俺は特に思い浮かばず、だがAが言ったんだ。
A「今日給料もらいましたけど」当たり前すぎて忘れてた。
そういえば給料も貰いものだなって妙に感心したりして。
俺「あ、あと巾着袋も」
A「おにぎりも。もらい物に入るなら」
給料を貰った時に、女将さんにもらった小さな袋を思い出した。
そして美咲ちゃんには、朝おにぎりを作って貰ったんだった。
坊さんはそれを聞くと、Bに話しかけた。
坊「Bくん、それのどれか一つを今、持っていますか?」
B「おにぎりはデカイ鞄の方に入れてありますけど、
給料と袋は今持ってます」
Bはそう言って、バッグからその二つを取り出した。
坊さんはまず巾着袋を開けた。
すると「これは・・」と言って、
俺達に見えるように袋の口を広げた。
中を覗き込んで俺達は息を呑んだ。
そこには、大量の爪の欠片が詰まっていたんだ。
俺の足に張り付いていたものと一緒だった。
見覚えのある、赤と黒ずんだものだった。
Bはその場ですぐまた吐いた。俺もそれに釣られて吐いた。
周辺が汚物の匂いでいっぱいになり、坊さんも顔を歪めていた。
坊さんはBの持ち物を全て預かると言い、
俺達2人も持ち物を全て出すように言った。
俺は携帯と財布を坊さんに手渡し、
旅行鞄の方に入っている巾着袋を処分してもらえるよう頼んだ。
坊さんは頷き、再度Bに竹筒の水を飲ませ、吹きかけた。

そして俺達3人がおんどうの中に入ると、
坊「この扉を開けてはなりません。皆、本堂のほうにおります。
明日の朝まで、誰もここに来ることはありません。
そして、壁の向こうのものと会話をしてはなりません。
このおんどうの中でも言葉を発してはなりません。
居場所を教えてはなりません。
これらをくれぐれもお守りいただけますよう、お願いします」
そう言って俺達の顔を見渡した。俺達は頷くしかなかった。
この時既に言葉を発してはならない気がして、
怖くて何も言えなかったんだ。

坊さんは俺達の様子を確認すると、扉を閉め、
そのまま何も言わず行ってしまった。

リゾートバイト
参照元http://nazolog.com/blog-entry-5049.html
原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」


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